Coataroの読書ときどきヒトリゴト

本を読んで感じたことなどを記しています。

底抜けビンボー暮らし

 

「底抜けビンボー暮らし」 松下竜一著 講談社文芸文庫 2018年

 

 

年収200万円に満たない作家の随筆集。13歳年下の妻・洋子との貧しさを全く感じさせない幸せな日々。貧乏暮らしを目前にした私にとって、良い教科書になりそうだ。

 

21年前にこの本を読んだ時、そんなことを書いていた。ちょうど会社を辞めたばかりだったのだろう。夫婦で犬の散歩に行き、河口のカモメにパンをやり、土手の景色を眺めているだけで「こういうときこそ至福の時というのではあるまいかと満ち足りた思いに浸っている」という姿は、その頃の自分の休日の過ごし方とはかけ離れていて、憧れめいた気持ちを抱いたのかもしれない。

久しぶりに再読したら、松下夫婦と自分の距離があの頃よりぐっと縮まった気がする。当時は長く連れ添った夫婦の親密さを羨ましく感じたものだが、どうやらそれは自分も手に入れることができたようである。お金に余裕がなくても日々を楽しむ術も知らぬ間に身につけていた。この夏、私のお気に入りの遊びは公園のアリのあとをつけること。煮干しの頭のカケラをやって、アリが巣まで運んで行くのをずっと眺めている。アリの体に比べるとものすごく重くて大きなカケラを驚くべき速さで運んでいく。草などの障害物に苦労したり、餌を横取りしようとするライバルアリが現れたり、なかなかドラマチックなのだ。この本を読んだ当時の感想は忘れていたけれど、教科書に負けず劣らずのハッピーな生活ができている気がする。