Coataroの読書ときどきヒトリゴト

本を読んで感じたことなどを記しています。

ブライヅヘッドふたたび

「ブライヅヘッドふたたび」 

イーヴリン・ウォー著  吉田健一訳 筑摩書房 1990年

 

うっとりするような文章があって心に残った作品。

セバスチアンの滅びゆく美少年ぶりも魅力的。

彼の台詞を間近で聞いたらきっと恋してしまうことだろう。

 

「・・・車と、苺が一籠とそれからシャトー・ペラゲーの白葡萄酒が一本ある。ーー君がまだ飲んだことがないものだから、飲んだことがあるような顔をしても駄目だよ。苺と一緒だと天国の味がする」

「・・・もう陰が欲しくなる程暑くて、羊が芝を食べに来る小さな丘に楡の木が何本か枝を伸ばしている下で、私達は苺と一緒に白葡萄酒を飲み、この取り合わせはセバスチアンが言った通り、何とも甘美なものだった。そして私達は太いトルコの巻き煙草に火を付けて仰向けに寝転び、セバスチアンは私達の上に重なっている楡の木の葉を、私はセバスチアンの横顔を見詰めていた。煙草の青味掛った灰色の煙が木の葉の青味掛った緑色の影に真直ぐに昇って行き、煙草の匂いが私達の廻りに満ちている夏の幾つもの匂いと混じり、黄金色をした葡萄酒の酔いが私達を芝からほんの僅かばかり浮き上がらせて、宙に私達を支えているようだった。」

「『ここは金の甕を埋めるのに丁度いい所だ。』とセバスチアンが言った。『私は私が幸福な思いをした場所毎に何か貴重なものを埋めて、そして私が年を取って醜くてみじめな人間になってからそこへ戻って来てそれを掘り出しては、昔を回顧したいんだ。』」