「新編 閑な老人」
「暢気眼鏡」で芥川賞を受賞した作家の作品集。
作品を読むのはこれが初めてだったが、「昔日の客」(関口良雄著)に出てきた古書店主と作家のエピソードを元にした小説があり、一気に距離が縮まった感じがした。
本の一番最後に収録されていた「生きる」という随筆が心に残った。
「巨大な時間の中の、たった何十年というわずかなくぎりのうちに、偶然在ることを共にした生きもの、植物、石・・・ 何でもいいが、すべてそれらのものとの交わりは、それがいつ断たれるかわからぬだけに切なるものがある。在ることをともにしたすべてのものと、できるだけ深く濃く交わること、それがせめて私の生きざまだと思っている」
この一文を読んだ時、確かにその通りだと思った。人でも動植物でも物でも、偶然自分が接することができた存在と、私はしっかり交わっているだろうか。あまり見向きもせずに通り過ぎていることの何と多いことか。全部が全部に向き合うことは難しいにせよ、せめて気に入ったものや人については、もう少し深く交わり、良さを味わい、共に在る喜びを堪能したいものだ。