本の幽霊
「本の幽霊」
西崎憲著 ナナロク社 2022年
古風な装丁とそこにあしらわれた、これもまた古風な装画。
金色の箔押しのタイトル。趣向が凝らされた遊び紙。
読み始める前にすでに魅せられている。
本屋の棚にささっているのを見つけたら、
私のために用意された本だと思ってしまいそうな佇まい。
標題作「本の幽霊」では、手に入れたと思った古書が消えてしまう。
さながら幽霊のように。
しかし、主人公は確かにその本を開いて冒頭を読んだはず・・・。
その一文が印象的すぎて、頼むからこの続きを読ませてくれという気持ちを
置き去りに、物語は終わる。
「あかるい冬の窓」「ふゆのほん」「砂嘴の上の図書館」
「縦むすびのほどきかた」「三田さん」
どれも短い話なのに奥行きを感じる。
それぞれの物語世界のほんの一角に居合わせることができただけで、
この先にどんな広がりが待っているのだろうと思う。
”ぼく”が語っていることはユニークであり、時々すごく共感する部分がある。
だからこの人と友人になりたいのだが、それはとても難しいような気がする。
彼の他人に対するおずおずとした感じが、自分の中にもあって
中途半端な距離をとってしまいそうだ。
信頼できそうな人なのに、冷たく裏切られるのではないかという疑念がくすぶる。
しかし、やはりこの人と友人になれたらいいなと思う。
何年かに一度会って話をし、別れた後に会えて良かったなと安心するような。
そんな風な感じで、この本を手元に置いておきたい。